歯科衛生士の引き継ぎメモ|書き方・ひな形と情報を守る注意点
「伝えたはずなのに、次の担当者が知らなかった」「引き継ぎメモが増えて、どれが最新か分からない」。歯科医院で仕事をつなぐとき、説明する側も受け取る側も困る場面があります。退職時だけでなく、シフト交代や担当変更、休暇前にも、情報を整理する仕組みが役立ちます。
引き継ぎメモは、長く書くより「現在の状態・次にすること・確認先」をそろえることが大切です。患者さんの診療情報は院内の正式な記録で管理し、連絡用のメモには必要な情報と参照先を整理します。相手が読んだか、どこまで引き受けたかを確認するところまでを一つの流れにしましょう。
この記事では、診療上の判断や処置の手順ではなく、日常業務を引き継ぐためのメモの作り方を解説します。ひな形と記入例は当サイトの提案です。院内の正式な様式、責任者の指示、個人情報の取扱規程を置き換えるものではありません。
最初に、正式な業務記録と連絡メモを分ける
日本歯科衛生士会の業務記録に関する指針は、記録を業務の継続や情報共有に関わるものとして位置づけています。[1] 一方、この記事の引き継ぎメモは、作業の進み具合や確認先を整理する補助的な道具です。メモを渡せば正式な記録が不要になる、という意味ではありません。
たとえば、患者さんの状態や行った業務を記載すべき正式な記録があるのに、個人の付箋だけに書いて終えると、必要な人が参照できません。「どこに何を書くか」を院内で決め、記録本体と連絡用の情報が食い違わないようにすることが出発点です。
| 情報の種類 | 主な役割 | 引き継ぎで確認すること |
|---|---|---|
| 診療録・正式な業務記録 | 診療や実施した業務に関する正式な記録 | 院内の定める場所に記載され、必要な担当者が参照できるか |
| 業務マニュアル | 共通する手順と確認経路 | 版と更新日、管理する責任者が分かるか |
| 引き継ぎメモ | 未完了の作業、期限、確認先の整理 | 次に誰が何をするかが分かるか |
| 個人の学習メモ | 自分が学ぶ内容の整理 | 患者情報や院内の機密情報を持ち出していないか |
役割が違う資料を一冊にまとめると、便利な反面、管理が曖昧になりやすくなります。自宅で見返す学習ノートに、患者さんの情報や院内専用の連絡を混ぜないようにしましょう。個人情報保護委員会の医療・介護ガイダンスも踏まえ、勤務先が認めた保存・共有方法を確認してください。[2]
引き継ぎが必要な仕事を、三つに分けて見つける
毎日繰り返す業務
物品の確認、準備、片付け、書類の整理など、毎日繰り返す仕事は、手順そのものと、その日の例外を分けます。共通手順を毎回メモへ書き写すと、更新漏れが起こりやすくなります。正式なマニュアルの参照先を示し、その日だけ違う点を補足する方法を考えましょう。
たとえば「いつものように補充してください」では、受け取る人が「いつも」を知らないかもしれません。どの場所の何を確認し、足りなければ誰に連絡するのかまで示すと、経験の違う人にも伝えやすくなります。製品の使用法や感染対策の手順は、承認された資料を参照してください。
進行中で、途中から引き受ける業務
発注依頼、修理の相談、研修の申請など、途中で担当者が変わる仕事には、「済んだこと」と「まだ済んでいないこと」が必要です。連絡しただけなのか、相手から回答を受け取ったのか、承認待ちなのかを分けて書きます。
「対応中」だけでは次の行動が分かりません。「担当者へ確認を依頼済み。回答は未着。回答が届いたら責任者へ共有する」のように、止まっている場所を示しましょう。連絡先を載せるときも、院内で共有してよい業務用の情報か確認します。
その日だけの変更や注意点
担当変更、機器の使用に関する院内の連絡、予定の調整など、期限が短い情報は、いつまで有効かを残します。古い注意メモが貼られ続けていると、現在も同じ対応が必要なのか判断しにくくなります。情報を出した人だけでなく、終了を確認する人も決めておきましょう。
診療の安全に関わる異常や緊急の問題は、メモを書いて相手が読むのを待つだけにしないでください。院内で決められた報告経路で速やかに伝え、必要な確認を受けます。この記事のひな形は、緊急時対応の代わりにはなりません。
引き継ぎメモに入れたい七つの項目
書く項目を増やすほど良いわけではありません。次の担当者が仕事を再開するために必要な欄を決め、院内で使える形へ調整します。患者情報を含む連絡は、この記事の一般業務の例をそのまま使わず、院内の正式な運用に従ってください。
| 項目 | 書く内容 | 曖昧な表現からの直し方 |
|---|---|---|
| 作成・更新日時 | 情報がいつの時点のものか | 「昨日」ではなく年月日や時刻で記す |
| 対象の業務 | 何についての引き継ぎか | 「あの件」ではなく業務名を示す |
| 現在の状態 | 完了、未完了、回答待ちなど | 「大丈夫」ではなく確認した事実を書く |
| 次の行動 | 受け取った人にお願いする作業 | 「よろしく」ではなく動詞で示す |
| 期限・優先度 | いつまでに確認が必要か | 自分で決められない期限は確認先を添える |
| 担当・確認先 | 誰が引き受け、誰に相談するか | 担当未定なら未定とし、責任者へ相談 |
| 参照先・受領確認 | 正式な資料の場所と受け渡しの状況 | 私物へ複製せず、院内の参照先を示す |

事実と依頼を別の文にする
「不足しているので、たぶん発注してください」という文には、確認した事実、推測、依頼が混ざっています。「保管場所を確認したが在庫を確認できなかった」「発注の要否を責任者へ確認してほしい」と分けると、次に確かめることが明確になります。
不明な点を空欄のままにするより、「未確認」「回答待ち」と残すほうが誤解を避けられます。分からないことを分かるように書くのも、引き継ぎの重要な役割です。受け取る人が、事実だと思って推測に基づき動かないようにしましょう。
期限は、希望と決定事項を区別する
自分では「今日中に終えてほしい」と思っていても、業務全体の優先順位を決める権限がなければ、勝手に確定した期限にしないようにします。「希望は本日中、優先順位は責任者へ確認」と整理する方法があります。診療に影響する急ぎの案件は、口頭などで確認を取ってください。
依頼を受けた側も、期限内に対応できるかをその場で確かめます。難しい場合は「いつならできるか」「誰に相談するか」を返し、引き継いだことにして放置しないようにします。担当者の名前を書くだけでは、相手の合意が取れたことにはなりません。
患者情報を含まない、一般業務の記入例
以下は、院内勉強会の資料準備を想定した架空の例です。実在の医院で使われた記録ではありません。実務に用いる際は、承認された保存場所、資料の利用条件、院内の担当体制に合わせて変更してください。
| 欄 | 架空の記入例 |
|---|---|
| 対象業務 | 院内勉強会の配布資料準備 |
| 現在の状態 | 案内文の下書きを作成。開催日時と配布範囲は責任者の確認待ち |
| 済んだこと | 公開可能な参考資料の候補を整理し、院内の所定フォルダに保存 |
| 次の行動 | 責任者から回答を受けた後、日時と資料の利用条件を再確認 |
| 期限 | 開催前の確認日まで。担当変更が必要なら責任者へ相談 |
| 担当・参照先 | 引受担当者は院内で決定。保存場所は承認済みの共有フォルダ |
| 受領確認 | 説明を受けた人が、不明点と担当範囲を確認して記録 |
この例で重要なのは、資料があることより、まだ決まっていないことが見える点です。下書きが完成していても、開催日時や配布範囲が未確認なら、配布してよい状態ではありません。メモに「確認待ち」と残すことで、作業の段階を共有できます。
読み手によって解釈が変わりやすい言葉も減らしましょう。「あと少し」「いつもの場所」「適当に」は、同じ職場にいても意味がそろいません。作業が止まったところと、再開するときの最初の動作を書くと、短いメモでも役立ちます。
渡し方は、口頭と記録の役割を組み合わせる
口頭では、最初に重要なことを一つ伝える
長い説明を始める前に、「確認待ちの仕事を一件引き継ぎたいです」と対象を伝えます。相手が別の仕事に集中している場合は、今説明してよいか確認しましょう。緊急の連絡なのか、時間を取って説明する連絡なのかを分けると、受け取り方も変わります。
説明の順番は、現状、次の行動、期限、確認先のように固定すると整理しやすくなります。過去の経緯を最初からすべて話すより、次の担当者が動くために必要なことを先に伝え、背景は質問に合わせて補います。
相手の理解を試すのではなく、認識を合わせる
「分かりましたか」とだけ聞くと、忙しさや遠慮から詳しい質問が出ないこともあります。「次は責任者の回答を待ち、届いたら内容を共有する、という認識で合っていますか」と、行動を一緒に確認する言い方に変えてみましょう。
受け取る側からも、「私が担当するのは資料の確認までで、配布の判断は責任者ということでよいですか」と範囲を返せます。分かりにくさを相手の能力の問題にせず、メモの不足や認識の違いとして調整することが大切です。
受領と完了を同じ印で管理しない
メモを受け取った段階と、作業を終えた段階は違います。チェック一つで両方を表すと、受け取っただけなのに完了と見なされることがあります。「受領」「対応中」「完了」「確認待ち」など、使う表示の意味を院内で合わせてください。
完了した後にも報告が必要な仕事なら、誰へ何を知らせるかを決めます。逆に、不要な報告を増やすと運用が重くなるため、毎回確認する仕事と、例外があるときだけ知らせる仕事を責任者と整理しましょう。

紙と共有データ、どちらにも長所と注意点がある
紙は手元で見やすい一方、紛失や置き忘れ、古い版の残存に注意が必要です。共有データは更新を伝えやすい一方、閲覧権限や保存先、誰が更新するかが曖昧だと混乱します。便利さだけで決めず、勤務先が認めている運用かを先に確認してください。
| 方法 | 使いやすい場面 | 先に決めたいこと |
|---|---|---|
| 所定の紙様式 | 短い交代勤務の連絡など | 保管場所、持ち出し禁止、処分方法、更新時の差し替え |
| 院内の承認済み共有データ | 複数人が進行状況を確認する業務 | アクセス権、更新者、版の識別、終了した情報の扱い |
| 口頭での申し送り | 急いで認識を合わせる必要がある場面 | 伝える相手、確認の返答、正式な記録への反映 |
私用のメッセージアプリや個人のクラウドは、使いやすいからという理由だけで業務情報の共有先にしないようにしましょう。個人情報を含む場合には特に、組織としての安全管理が必要です。[2] 新しい道具を導入する前に、管理責任者へ確認してください。
名前を消しただけで、どんな情報でも自由に持ち出せるとは限りません。日付、年齢、珍しい状況などの組み合わせで個人が分かることも考え、学習用や相談用の資料には必要のない詳細を残さない運用を検討します。具体的な判断は院内の個人情報管理担当者に相談してください。
引き継ぎの時間が取れないときの相談方法
「忙しいから自分が頑張って全部書く」だけでは、説明や確認の時間が不足したままになります。引き継ぐ仕事を一覧にし、重要度、必要な説明、担当未定の部分を分けて責任者へ相談しましょう。全業務を同じ詳しさで書くより、優先順位を決めることが先です。
相談例:「交代前に確認したい仕事が三件あります。一件は本日中の確認が必要で、二件は明日でも対応できます。誰へ渡すかと、説明する時間を決めていただけますか。」これは架空の言い方です。件数や期限は実際の状況に合わせてください。
退職や長期の休暇に伴う引き継ぎでは、すべてを最後の日にまとめないほうが整理しやすくなります。残る勤務日の中で、一覧の作成、担当の決定、実際の説明、未完了の確認を分けて計画します。退職後も無期限に個人連絡へ対応する約束を、その場の不安からしないようにしましょう。
責任者が決めるべき配置や業務量まで、一人で解決しなければならないわけではありません。説明する時間や確認先が継続して確保されない場合は、困っている場面と業務への影響を整理して相談します。転職を考える場合も、まず次の職場で確認したい体制を具体化しておくと比較に使えます。
引き継ぎを増やしすぎないための見直し
メモが毎日長くなる場合は、共通の手順がどこにも整理されていない、同じ確認を複数の場所で行っている、といった原因がないか考えます。個人の文章力だけの問題にせず、同じ説明が繰り返される箇所をマニュアル化できないか責任者へ提案してみましょう。
一方で、短くするために必要な情報まで削ると、問い合わせが増えることがあります。「分量」よりも、受け手が次の行動を決められたかを振り返ります。質問が出た場所を一つずつ直し、項目を増やす場合も本当に必要か確かめてください。
最初から完璧な様式を作るより、一つの一般業務で試し、使いにくかった欄を見直す方法があります。試行時も院内の許可と運用に従い、患者情報を含まない業務から始めると、様式自体の課題を整理しやすくなります。
よくある質問
メモを渡したのに読んでもらえない場合は?
渡す場所と受け取る相手、確認するタイミングが決まっているかを確認します。「机に置いたから伝わった」とせず、引き受けの確認方法を相談しましょう。急ぎの案件は、メモ以外の院内の報告経路も使ってください。
自分だけのノートを後任へ渡してもよいですか?
そのまま渡す前に、個人の感想、未確認の手順、不要な情報が混ざっていないかを確認します。正式な業務資料として使う場合は責任者の確認を受け、必要な部分を院内の様式へ整理し直すほうが安全です。私物のノートが正式記録の代わりになるとは考えないでください。
全部の業務を細かく文章化するべきですか?
共通マニュアルを参照できるものは、参照先と今回の変更点で足りる場合があります。個別の注意や未完了の作業は、次の行動まで具体的にします。どの詳しさが必要かは、受け取る人の経験と院内のルールを踏まえて調整してください。
引き継ぎ相手がまだ決まっていません。
担当を推測して記入せず、責任者へ決定を依頼します。決まるまでに、業務一覧と優先事項を整理しておくことはできます。ただし、相手がいないまま引き継ぎ完了と扱わないよう、未決定の状態を明示しましょう。
まとめ|「伝えた」から「次の人が動ける」へ
引き継ぎメモは、正式な業務記録や院内マニュアルと役割を分け、現状、次の行動、期限、確認先をそろえると使いやすくなります。重要な連絡は口頭などでも確認し、受領と完了を分けて管理しましょう。
まずは、次の交代までに残る一般業務を一件選び、「何が済み、何がまだか」を書いてみてください。患者情報を増やさず、必要な人が必要な記録へたどり着ける形に整えることが、無理のない引き継ぎの土台になります。
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- 歯科衛生士の退職の伝え方:退職に伴う引き継ぎ全体の予定を整理する。
- 新人歯科衛生士の仕事の覚え方:引き継いだ内容を確認しながら学ぶ。
- 研修レポートの書き方と院内共有:研修で得た情報の報告と共有を整理する。
参考にした情報
情報確認日:2026年9月16日。以下は確認時点の公式掲載資料です。確認日と発行・改訂日は異なります。質問例・整理表・計算例は当サイトの提案であり、公式様式や実体験の転載ではありません。
- [1]日本歯科衛生士会「歯科衛生士の業務記録に関する指針」
直接URL:https://www.jdha.or.jp/pdf/contents/info/20240515.pdf
確認日:2026年9月16日 - [2]個人情報保護委員会・厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」
直接URL:https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/iryoukaigo_guidance/
確認日:2026年9月16日

