歯科衛生士の勉強会資料と著作権|本・図・写真を使う前の確認
院内勉強会の資料を作るとき、分かりやすい本の図をスライドへ入れたくなることがあります。「少人数の勉強会なら大丈夫」「出典を書けば使える」と考えたくなりますが、利用する範囲や方法まで確認しておきたいところです。
結論は、本・図・写真を使う前に「何を、誰へ、どの方法で見せるか」を整理し、権利者の利用条件や許諾、引用として扱えるかを確認することです。出典の表示は大切ですが、それだけですべての利用が認められるわけではありません。[1]
この記事は、歯科衛生士が勉強会資料を準備するときの一般的な確認手順です。個別の素材利用が適法かどうかを判定する記事ではありません。迷う場合は権利者や出版社、院内の担当者、必要に応じて専門家へ確認してください。資料の作り方や問い合わせ例は当サイトの提案です。
「勉強のため」と「自由に使える」は分けて考える
日本歯科衛生士会は二〇二六年四月十日、日本歯学図書出版協会からの著作権に関する周知文書を案内しています。[2] 歯科の学習でも、書籍や雑誌などの表現をどう扱うかは、確認しておきたい基本事項です。
文化庁の著作権テキストでは、他人の著作物を利用するときの権利と、一定の条件で許諾を得ずに利用できる場合が整理されています。[1] 勉強会だからすべて同じ扱いになるのではなく、行う利用と条件を一つずつ見る必要があります。
例えば、自分が本を読んで学ぶことと、本のページを複写して参加者へ配ることは別の行為です。会場で見せる資料と、後からファイルを配布する資料も同じとは限りません。院内だけの会であっても、私的な読書の延長として一律に扱わないようにしましょう。
この記事では、制度の条文を覚えることより、資料を作る前に確認する習慣へ焦点を当てます。臨床の内容が正確であることと、その図や文章を利用できることも別です。内容の確認と権利の確認を、どちらか一方で済ませないことが大切です。
最初に「利用予定表」を一枚作る
資料をほぼ完成させてから許諾が必要と分かると、差し替えに時間がかかります。使いたい素材を集める段階で、出所と利用予定を短く記録しましょう。以下は当サイトが提案する管理表で、公式の許諾申請書ではありません。
表は横にスクロールできます。
| 記録する項目 | 書いておく内容 | 後で困りやすいこと |
|---|---|---|
| 出所 | 書名、著者、出版社、版、ページ、URL等 | 元の掲載場所が分からない |
| 使いたい部分 | 図、写真、文章などの範囲 | 本全体への許可と思い込む |
| 使う場面 | 院内投影、紙配布、ファイル配布等 | 投影だけの予定が配布へ変わる |
| 対象 | 参加者の範囲、人数の見込み | 外部共有へ流用する |
| 確認の状況 | 条件確認中、許諾済み、使用しない等 | 返答待ちを許可済みにする |
| 証拠の保存 | 案内ページ、回答メール等 | いつ何を許されたか追えない |
URLだけでは後から内容が変わる場合があります。確認した日、該当する利用条件、回答をもらった日も併せて残すと、同じ資料を再利用する際に見直せます。権利者の連絡先などの情報は、院内で必要な人が確認できる方法で管理してください。
「利用条件が見当たらない」は「制限がない」と同じではありません。急いでいるときほど、未確認の素材を使ったまま完成させず、差し替え候補も並行して考えると作業を進めやすくなります。

引用と転載を、出典の有無だけで判断しない
他人の文章や図を示して説明する場合、引用として扱えるかは、目的や範囲、資料内での位置づけなどを確認する必要があります。文化庁の解説は、公表された著作物について、公正な慣行に合い、引用の目的上正当な範囲で行うことなどを説明しています。[1]
出典を書いた小さな注記があっても、他人の図や本文を資料の中心に置き、自分の説明がほとんどない状態なら、単に出典があるから大丈夫とは判断できません。一方、図だからすべて引用できないと決めつけることも避け、具体的な利用について確認します。
その部分を示す必要性を言葉にする
使いたい図を選んだら、「この図のどこについて説明・検討したいのか」を一文で書いてみます。「きれいだから」「空白を埋めたいから」しか理由が出てこない場合は、装飾として利用しようとしていないかを見直すきっかけになります。
必要な情報が文章で説明できるなら、自分の理解に基づく解説と参照先の案内に替える方法があります。ただし、元の文章の言い回しを少し変えただけで、自分の文章になったと思い込まないようにしてください。事実の根拠と、表現の作成を分けて考えます。
引用する部分と、自分の説明を区別する
引用を検討する場合は、読み手が他人の表現と自分の説明を区別できるようにします。見た目を整えるために出典を極端に小さくしたり、資料の最後にURLだけを並べたりすると、どの部分の出所か分かりにくくなります。
具体的な出典の書式は、資料や発表先の指定も確認しましょう。書名、著者、版、ページ、掲載元など、使った部分へたどれる情報を整理します。著作権上の検討と、学術上の引用・参考文献の書式は関連しますが、同じ確認だけで完了するものではありません。
一律の文字数や面積の基準を作らない
「何文字以内なら必ず使える」「スライドの何割なら問題ない」といった独自の基準だけで判断しないでください。資料の目的や利用する部分の性質が違えば、確認すべき点も変わります。記事では個別の引用の可否を保証しません。
判断に迷う場合は、その図を入れた完成イメージと説明の目的を整理して相談します。「本の図を使っていいですか」だけよりも、具体的な利用予定が分かるほうが、必要な条件を確かめやすくなります。
許諾を確認するときに伝えたいこと
権利者や出版社に問い合わせる前に、利用する素材と方法を整理します。連絡先が出版社でも、すべての写真や図の権利を出版社が持つとは限らないため、誰に確認すべきかも含めて尋ねてください。自分の都合で回答のない状態を許可と扱わないことが大切です。
問い合わせの準備項目は、書名・版・該当ページ、図や文章の範囲、勉強会の目的、参加者の範囲、投影・配布・オンライン共有の有無、資料の保存や再利用の予定です。有料の会かどうかなど、先方が求める情報も確認します。
架空の文例として、「院内職員向けの勉強会で、貴書の〇ページの図について解説したいと考えています。会場での投影と参加者への紙配布を予定しています。利用の可否、必要な申請、出典表記、費用等の条件をご教示いただけますでしょうか」と伝えられます。
承諾された場合も、加工の可否、配布できる範囲、再利用の条件などを確認します。別の勉強会で使う、録画して配信する、ブログへ転載するなど、当初の予定が変わるときは、同じ許諾でよいか改めて見直しましょう。
返答が間に合わない場合は、使わない構成へ切り替える判断も必要です。質問を送った事実と許可を得た事実を分けて管理すれば、後から参加者へ配る資料へ未確認の図が紛れ込むことも防ぎやすくなります。
本の図を貼らなくても伝わる資料へ組み替える
先に「持ち帰ってほしいこと」を決める
勉強会で伝えたいことが三つあるなら、まずその三つを自分の言葉で書きます。その後、説明を助ける資料が本当に必要かを考えましょう。資料の画像を集めるところから始めると、画像の順番に話が引っ張られやすくなります。
例えば「新しい学習内容を院内で検討する」という目的なら、学んだ要点、現在の院内手順との違い、責任者へ確認したい点の順に構成できます。臨床の手順を自分で改変して指示するのではなく、確認が必要な範囲を明らかにする資料にします。
自作の図でも、元の表現をなぞらない
本の図を見ながら色や線だけを変えることと、自分で構成を考えて説明することは同じではありません。図の選択や配置をそのまま再現する前に、権利の問題が残らないか確認してください。「描き直したから必ず自由」とは考えません。
自作するなら、まず説明したい関係を文章で整理し、資料の目的に合った構造を一から検討します。出典に基づく事実を扱う場合は、根拠の表示も必要です。医療の図は見た目だけでなく内容の正確性が大切なので、責任者や指導者の確認を受けましょう。
原典を案内する方法も比較する
図を転載せず、書名とページ、公式の公開ページなどを案内して、参加者が原典を確認できる形にする方法もあります。参照先を示せば、前後の説明や注意事項も含めて読める利点があります。ただし有料資料など、参加者が閲覧できる条件にも配慮します。
リンクを置くときは、実際の内容と公開状態を確かめ、海賊版など権利侵害が疑われる配布元を紹介しないようにします。二次的なまとめだけでなく、できるだけ作成元のページへたどれる案内を心がけてください。

写真には、著作権以外の確認もある
患者さんや職員が写った写真は、写真を撮影した人の許可だけを考えればよいわけではありません。医療情報や個人情報の扱い、利用目的、共有範囲、院内規程などを確認する必要があります。[3] 名前を消せば自由に配布できるという判断は避けましょう。
自分が撮影した写真でも、私物端末に保存してよいか、資料に入れてよいかは別に確認します。勉強会で使える資料と、ウェブサイトへ公開できる資料を混同しないことも大切です。公開用へ転用するときは、最初の同意や院内の許可の範囲へ戻って確認します。
素材サイトの画像を使う場合は、無料か有料かだけで決めず、商用利用、医療分野の利用、改変、クレジット表記、再配布などの条件を読みます。利用時の条件を残しておけば、資料の用途が変わったときに見直しやすくなります。
生成AIで作った画像も、既存作品に似せる指示を避け、出力の確認を行います。文化庁はAIの生成・利用段階でも著作権侵害の検討が必要になることを説明しています。[1] 医療の図や手順を示す画像は誤りがないか別途確認し、実際の症例写真と誤認させないようにしてください。
完成前に、投影版と配布版を別々に点検する
投影用のスライドでは使う予定がなかった図が、配布版の付録に残っていないかを確認します。逆に、投影版では出典が読めても、印刷すると小さくつぶれることがあります。実際の使い方に合わせて、参照先と注意事項が伝わるかを見直しましょう。
チェックする順番は、使用素材の一覧、許諾や利用条件、出典、患者・職員の情報、共有先、ファイル名と版です。資料を別の人へ渡す場合は、どの素材に制限があるかも伝えます。「完成版」とだけ書かれたファイルを、用途を知らない人が外部へ流用しないようにします。
この準備の利点は、後から使った素材をたどれること、差し替えが必要な箇所が分かることです。一方、確認には時間がかかり、許諾料や利用範囲の制限がある場合もあります。短時間の共有会では、画像を増やすより、確実に使える資料に絞るほうが運用しやすいこともあります。
共同で資料を作るときの分担メモ
複数人でスライドを分担すると、誰かが出典を確認しているだろうと思い込みやすくなります。各担当者が素材の出所と確認状況を残し、最後に取りまとめる人が、一覧と実際の資料を照らす方法を決めましょう。発表者と資料作成者が違う場合は、利用条件も引き継ぎます。
修正を頼まれたときは、文章の誤字修正なのか、素材の加工なのかも区別します。写真を切り抜く、図の一部を消す、色を変えるなどの変更は、利用条件との関係を確認せずに行わないようにします。見栄えの調整をする人にも、どの部分が他人の表現か分かる状態が必要です。
発表直前に追加された一枚は、確認の一覧から漏れやすい場所です。最終版の番号を決め、追加の素材がある場合は出所と利用方法を再点検します。これは法的な判定を自動化する仕組みではなく、未確認の部分に気づくための作業上の工夫です。判断できない素材を後から確認する前提で配布しないことを、チーム内で共有しましょう。
よくある質問
出典を書けば、本のページを配ってもよいですか
出典の記載だけで全ての利用が認められるわけではありません。配布の範囲や利用方法、許諾や例外規定の条件を確認します。判断できなければ、必要な部分と目的を整理し、出版社等に相談してください。
非営利の院内勉強会なら、学校の授業と同じですか
同じものとして扱わないでください。文化庁のテキストでは、教育機関における利用などについて、対象や条件を区別して説明しています。[1] 「勉強会」という名称だけで判断せず、実際の場面に適用されるかを確認します。
以前作った資料をもう一度使うときも確認しますか
利用する範囲が変わらないか、素材の条件や許諾に再利用の制限がないかを確認します。医学的な内容も変わる可能性があるため、前回の内容をそのまま最新情報として説明しないようにしましょう。
著作権の本を買わないと準備できませんか
最初は文化庁の無料公開資料や、権利者の案内から確認できます。[4] 書籍を選ぶ場合は、困っている場面を扱う目次、改訂状況、初心者向けの説明かを見ます。購入すれば個別の利用が許可されるわけではありません。
まとめ|資料を集めるときから、利用条件を一緒に残す
勉強会資料を作るときは、内容の正確性と素材の利用条件を分けて確認しましょう。出所、使う部分、見せる相手、配布や公開の方法を残し、引用や許諾について迷う点を早めに相談することが大切です。
最初の一歩は、使いたい図を一つ選び、原典と利用予定を書き出すことです。確認が難しければ、自分の説明と原典の案内へ構成を変える方法もあります。見栄えよりも、根拠をたどれて安心して共有できる資料を目指しましょう。
あわせて読みたい記事
参考にした情報
- 文化庁「令和8年度著作権テキスト」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/pdf/94436101_01.pdf
確認日:2026-09-23 - 日本歯科衛生士会「「書籍・雑誌等にかかわる著作権のきほん」に関する周知」
https://www.jdha.or.jp/topics/jdha/c/939/general/
確認日:2026-09-23 - 個人情報保護委員会・厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」
https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/iryoukaigo_guidance/
確認日:2026-09-23 - 文化庁「著作権を学ぶ(教材・講習会)」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/
確認日:2026-09-23

